Crossroads 3 また会う日まで…
〜守護神ゴーレスとちゅら幸子さんの十字路〜
文 画 みかつきなお

カメはドキドキしていた。
死んでたと思った幸賢が生きている。
戦争も生き延び孫まで作っていた。
そしてすぐ近くにいて、もうすぐ会える。
そんな奇跡を間近に感じていた。
「ちむわさわさー(胸がそわそわ)するさー」
と、つぶやくカメ。
そんなカメに小夜子は素朴な疑問をぶつけた。
「カメおばあさんは結婚しても池宮城姓を名乗っているのはどうして?」
「簡単に言うとねー遠い親戚の池宮城さんと結婚したわけさー。
門中の六月ウマチーで出会ってねー。
『もう戦後10年以上探していなかったら諦め時だよ』と言われて、それから縁あって結婚して池宮城天ぷら店を再建できたわけさー。
でももうオジーはいないから。オバーは寂しかったよー」
小夜子はにんまりして、「うちもオバーが先立ったから、…二人付き合っちゃいなよ」
「あんた恥ずかしいこと言わんでよー」カメは顔を赤くした。
カナもみずきも笑いながらうなづいた。
そんな時、幸賢は壁にぶつかっていた。
自転車がぶつかった訳ではない。
パラダイス通りから沖映通りに交わる十字路で、反対側の十貫瀨通りに入れない。見えない壁にぶつかっていた。
しかも、向こう側の通りの奥の方からどんどん暗闇が迫って来た。
そして、幸賢は全てを悟った。
「私はカメさんが死んだ次元にいる。
そして向こう側は私が死んだ次元」
そう思うと幸賢は沖縄戦を悔しく思い、涙が溢れて来た。
しかし今でなければカメさんに会えない。
「よし、次元の扉『アワ』を開く!葦原さんが得意だった技だ。
術式は…この場合ウガン(祈祷)の力だ」ちょうど、お墓参りの為自転車に乗せていた沖縄線香6本1組を3組地面に並べた。
そして見えない壁に向かって祈った。
子供の頃からのカメさんとの事。
イメージの知覚の扉を開いて行った。
その何枚もの扉の向こうにカメさんを感じる。
そして「パリーン!」と氷が壊れるイメージがして、片手が通る位の空間の穴が開いた。
「私の力でこれくらい開けられれば上等だ」そして自分のスマートフォンを穴に入れ、みずき宛に電話した。
幸賢の子供の頃の面白いエピソードを3人に談笑していたカメであったが、みずきの電話の着信音に皆話を止めた。幸賢からの電話だ。
「急ぎだ、あえて能力者のみずきに連絡した。まずカメさんに指示、ウガンを続けなさい。『幸賢に会えますように』と。
線香を時間差で長く続くように置いておきなさい」
みずきは指示通りカメに伝えた。
カメは仏間に向かって行った。
「この状況をすぐ理解できるのはみずきだけだ。分かるか?」
みずきはここへ来てからの違和感に敏感に反応した。
「はいわかります。今空間が不安定です」
「だろ、私は次元の壁を少しこじ開けた。
そして悲しい現実を言おう今、そこに誰々いる?」
「カメさんの孫娘さん22歳の人がいる。小夜子もいる。カメさんは奥の部屋でウガンしてる」
「ではスピーカーフォンにして三人で聞きなさい。
池宮城天ぷら店のある世界は私が沖縄戦で死んだ次元の世界。
私がいるのはカメさんが亡くなった次元の世界。
本来交わる事のない世界が交わったのは、ウガンの力。
そこのカレンダーは何年何日だ?」
カナがカレンダーを見て言った。
「おじいさん、2012年の5月6日です。
西銘さんの命日だからばあちゃんは拝んでいました」
「私の世界と全く同じ日付、全く同じ時間に同時に私とカメさんはウガンした。
簡単にいうとカメさんはユタの力を持っている。
しかも次元の壁を越えて私と繋がろうとしていた」
やっとちんぷんかんぷんだった小夜子が口を開いた。
「オジー、カメさんも能力者ねー?」「そうだ」
SF好きのカナは大体理解した。
「私たちは平行宇宙同士が接触してるんですね。
すごい。でもウガンをやめたら、ばあちゃんの能力が切れたら…。幸賢さん、どうなるの?」
「みずきと小夜子は元の世界に戻れなくなる。」
「せっかく友達になったのに残念だけど。元の世界に戻ってほしい」
カナは両手で二人の手を握った。
「急がなきゃいけない、みずき、お前は茂敏の孫。
次元を越えるアワの術が使えるはずだ。カメさんに加勢しなさい」
「はい!」仏間でウガンするカメの後ろで祈った。
「みんな加勢しなさい!」みんなで必死に祈った。

すると人が通れる丸い輪が出来上がった。
そこを自転車でまたいで幸賢は急いでまっすぐ走った。
池宮城天ぷら店に到着した。
第一声、「カメー、幸賢が参上したぞ!」その声にみんな驚き、入口に集まった。
お互い歳をとっていても若い頃の面影は残っている。
「カメー!」
「幸賢さん!」二人は抱き合った。
そして抱擁が終わった後。二人は笑い合った。
しかし、幸賢は厳しい顔になった。
「ウガンで開けたアワの門。いつまでも開いているわけではない。
門の前でお別れしよう。カメー、私は確かに戦死している、私は戦死していない世界へ戻らないといけない」
「よく分からないけど、あんたグソー(後世、あの世)に帰るのね。」
「ああ、そう理解してくれるとわかりやすい。
しかし、うんじゅにはユタの力がある。
グソーの扉を開ける力。
私とうんじゅが同時にウガンしたから扉は開いた。
でも短い時間しか開けない。
扉のところでみんなでお別れしよう。
ねーさんもついていくね?」カナはもちろんという顔でうなづいた。
「さあ、グソーの世界へ行くよ!」カメは首を振った。
「私は足が悪いから走れないさー」幸賢は自転車の荷台を指差して、「ここに横座りして乗りなさい」
カメはスカートのお尻を荷台に乗せて、幸賢のお腹にしがみついた。
「中学生ぶりだねー幸賢」恥ずかしさをこらえて幸賢は、「出発進行!」と言い、3人の女の子たちは「はーい」と言った。
幸賢は汽笛を「ピー」と鳴らして蒸気アシストの自転車は前に進み、走る女の子たちの歩調に合わせたスピードで走った。
カメが歌い出した。「青い山脈〜雪割り桜〜」幸賢も歌った。
「私の世界と変わらんね。カメさんビートルズは元気かね?」
「ジョンレノンが先に死んださー銃で撃たれたよー、悲しかったねー」
「私の世界では再結成して元気よー。レッドツェッペリンはどうね?」
「うるさいのは好きじゃないねー」カナはスマホで検索した。
カナは「80年、ドラマーが死んで解散だって」
みずきは検索するまでもなく「現在も4人元気なおじいさん達!稲田さんにこればっかり聞かされた」
するとアワの門が見えて来た。
カナはいち早く走って門をくぐった。
それは異世界だった。
鳥型のマシンが自動車の間を走り、幾つも8mサイズのロボットが走行している。
「装機小隊グラビスの世界だ!ねえ、この世界では戦争しているの?」
みずきは言った。
「あれは工事用アクチュエーターよ。
日本は一応平和。
でもあれを使って戦争している国もあるわ」
小夜子は自慢げに言った。
「私たち大学生と一緒に18m級アクチュエーター自作してるんだ!名前はゴーレス」
カナは写メを撮りながら「ゴーレスかあ、カッコいい名前ね。出来上がったのを見たいなー」
ここで、幸賢が咳払いをした。
「残念だがお別れの時間だ。持ち合わせの線香が尽きそうだ」3人とも淋しい気持ちになった。
みずきが提案した。
「二人同時にウガンすればいいのなら、次は6月23日の慰霊の日正午とかウガンすればいいんじゃない?」
幸賢は考えて言った。
「これは亡くなった西銘兄さんへの気持ちが一致したから出来た奇跡。
次は来年5月6日だ。
カメさんもユタとしての自覚がない。
可能性が高いのは来年だ。」
カメは淋しげな声で「来年また会えるねー?死んだらウガンできないよー。」
「私は絶対死なん。カメさんこそくんち(元気)つけて生きなさい。
さあ、二人とも門の向こう側へ。」少しアワの門は小さくなり、二人はまたいで入った。門は少しづつ小さくなってゆく。
小夜子とカナは握手をしてバイバイを続けた。
「また会おうねカナさん」「またね。小夜子ちゃん」
そしてみずきの口から自然に歌が出た。
「いつまでも絶えることなく 友達でいよう」
カナも同じ歌を歌った。
門が丸く小さくなるとともに二人の姿が消えてゆく。
でも歌声は続いた。
そして「また会う日まで」この歌詞が終わった時に二人の顔が消えた。
もちろんカメとカナの側からも三人の顔が消えた。
そして信号が赤になり、カメとカナは泣いた。
しかしカメは毅然とした態度で、カナの肩を叩いた。
「さあ、うちに戻ったらもう一度今度は感謝のウガンだよ。
私は嬉しい気持ちでいっぱいだから」
カナは携帯に映った幸賢さんとみずきと小夜子の顔を見た。
「また会おうね。バイバイ」
家に帰った幸賢らは、同じように感謝のウガンをした。
みずきはぽつりと言った。
「戦争でどちらかが死んで二つの世界が分かれていった。
それじゃ、沖縄戦で亡くなった人の分だけ世界は存在するのかしら」
幸賢はうなづいた。
「世界に争いが続く限り、悲しい世界が生み出されてゆく。
今回のようなこんな奇跡は滅多にないだろう。
だから前を向いてゴーレスを作りなさい。平和な世界の礎(いしずえ)となるために」
みずきと小夜子はうなづいた。
小夜子は言った。
「じゃあ、6月23日平和の礎(イシジ)にお参りに行こう。」
幸賢は無言でうなづいた。
そして15歳の二人の写真をじっくり見た。

